生成AIの導入を検討するとき、最初に決めるのはサービス名ではありません。現在の業務を作業単位に分け、何のために使うのか、何を入力するのか、誤りが起きたとき誰に影響するのか、誰が最終確認するのかを整理します。
まず、次の6項目を書き出してください。
この6項目が決まらなければ、ツールの機能を比較しても自社に適しているか判断できません。反対に、業務と責任が整理できれば、生成AIを使わない方がよい作業も見えてきます。
「文章作成を効率化したい」だけでは対象が広すぎます。社内メモの下書きと、顧客へ送る契約上の説明では、必要な正確性、入力する情報、誤りの影響が異なります。同じ生成AIを使う場合でも、許容できる使い方は同じではありません。
経済産業省・総務省の「AI事業者ガイドライン」は、AI利用者にも、利用目的に照らした適正利用、出力の精度やリスクの理解、個人情報や機密情報への配慮などを求めています。IPAの導入・運用資料も、導入、運用、リスク管理を分け、組織としてルールを文書化する必要性を扱っています。
小規模な組織では一人が複数業務を兼ねるため、「使う人」と「確認する人」が同じになることもあります。その場合でも、確認手順を省くのではなく、どの資料と照合してから利用するかを決めておくことが重要です。
「営業」「経理」「事務」のような部門名や大分類では、AIへ任せる部分を判断できません。一つの業務を、入力から最終判断までの動作に分けます。
たとえば「問い合わせ対応」は、次のように分けられます。
「会議業務」なら、日程調整、資料収集、議題作成、メモ、要約、決定事項の確認、担当者への連絡に分けられます。生成AIの候補になり得るのは業務全体ではなく、情報収集、下書き、要約、形式変換などの一部です。承認や対外送信まで一括して任せないよう、境界を線で示します。
書き出した各作業に、次の項目を追加します。
| 確認項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 目的 | その作業が必要な理由と完成条件 |
| 頻度 | 1日・1週・1か月に何回あるか |
| 所要時間 | 開始から確認完了までの実測時間 |
| 手戻り | 修正ややり直しの回数と理由 |
| 待ち時間 | 資料や承認を待つ時間 |
| 担当者 | 実行者と最終確認者 |
頻度や時間は一般的な数字を当てはめず、自社で測ります。まず通常業務の数件について開始時刻と終了時刻を記録し、作成時間だけでなく、確認と修正にかかった時間も分けてください。
候補を絞るときは「時間が長いから」だけで決めません。目的が明確で、繰り返しがあり、完成条件を人が確認しやすい作業から検討します。そもそも不要な作業なら、AIで速くする前に廃止・統合できないかを考えます。
候補ごとに、AIへ渡す情報を列挙します。顧客情報、個人情報、契約内容、未公開の企画、社内限定資料、ID・パスワードなどの認証情報が含まれないか確認してください。
特に認証情報は入力しません。その他の機密情報や個人情報も、利用サービスの規約、契約プラン、管理設定、入力データの保存や学習利用の扱い、社内ルールを確認できるまで入力しないでください。あるサービスの設定や契約条件を、別のサービスにも当てはめることはできません。
次に、誤りの影響を考えます。
影響が大きく、正誤を確かめにくい作業は、最初の試行対象から外します。
生成AIは、候補の列挙、文章の下書き、指定形式への整理などに使える場合があります。しかし、出力が自然な文章でも、内容が正しいとは限りません。作業ごとに「AIが作るもの」「人が確認する項目」「最終判断者」を明記します。
たとえば社内向け手順書の下書きなら、AIが章立てと文案を作り、担当者が現行手順、画面名、権限、例外処理を原資料と照合し、責任者が公開を承認する、という分担です。
法務・契約、採用・人事評価、顧客への正式回答、重要な経営判断では、AIの出力を判断そのものとして扱いません。必要に応じて専門家へ確認し、権限を持つ人が根拠を確認して最終判断します。「AIがそう回答した」は判断責任の所在にはなりません。
最初の試行は、低リスクで、正解や品質を人が確認しやすい範囲に限定します。公開済み情報だけを使った社内文案、機密情報を含まない文章の整理、既に人が作成した文書の観点別チェックなどが候補になり得ます。ただし、実際に使えるかは自社の情報と利用サービスの条件で判断してください。
試行前に、期間、担当者、対象件数、入力してよい情報、出力の利用先、中止条件を決めます。比較する指標は次のように、実際に記録できるものにします。
生成時間だけが短くなっても、確認や修正が増えれば業務全体の負担は減っていません。試行前の実測値と同じ範囲で比べ、続ける、条件を変える、中止するのいずれかを判断します。
次のような場合は、少なくとも条件が整うまで利用を見送ります。
使わない判断は導入の失敗ではありません。既存のテンプレート、入力フォーム、チェックリスト、業務手順の整理で解決できる場合もあります。
試行を継続する場合は、少なくとも利用目的、利用できる担当者、入力禁止情報、許可するサービスと設定、確認項目、承認者、記録方法、事故時の連絡先を文書にします。現場で読める長さにし、具体例を添えてください。
ルールは作って終わりではありません。サービスの規約や機能、業務内容、担当者は変わります。試行終了日と、その後の定期見直し日をあらかじめ予定に入れます。問題が起きたときだけでなく、入力情報の種類が変わったとき、利用範囲を広げるとき、サービスや契約プランを変更するときにも見直します。
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一方、公開情報で確認できない外部企業のAI導入実績や削減効果は、この記事では示していません。相談時は顧客名、個人情報、契約書本文、認証情報などの機密情報を書かず、まず「どの業務を、何の目的で整理したいか」をお知らせください。
ツールを導入する前に、業務名、入力情報、誤りの影響、確認責任、試行範囲を整理すると、試す作業と試さない作業を区別できます。小さな範囲で品質、手戻り、確認時間を記録し、人が最終判断できる運用を作ってから範囲を見直しましょう。